マンション紛争と裁判について

 
 マンション紛争の当事者適格 
 

 マンションにおける紛争について訴訟の場で解決を図るときは、当事者の実体的な権利や義務を根拠として結論が導かれます。そこで問題となるのは、権利や義務の主体となる資格が存在することを前提として、そのマンション紛争を誰と誰との間で解決しなければならないかという当事者適格の問題です。
 まず区分所有者について言いますと、区分所有者は専有部分につき区分所有権を有し共用部分や敷地につき共有持分権を有しますので、個々の区分所有者はこのような権利をめぐる紛争についてその権利を根拠として当事者として自己の利益の実現をはかることができます。
 また、管理組合が実際に機能しているのであれば、管理組合の権利をめぐる紛争について管理組合は当事者として自己の利益の実現をはかることができます。そのような訴訟において法人の登記をした管理組合(○○○○管理組合法人と称する)は、当然訴訟当事者となります。法人の登記を経由しない管理組合は、いわゆる「権利能力なき社団」ですが、管理規約に代表者の定めがあれば(裁判所へ管理規約のコピーを提出してそのことを証明)、訴訟の当事者となることができます(民事訴訟法29条)。 

 任意的訴訟担当
 

 管理者はその職務に関して区分所有者を代理する立場です(法262項)。管理者は区分所有者に代わって保険会社に損害保険金を請求したり、共用部分について生じた損害賠償金や不当利得金を第三者に請求したりすることもできます。その場合、管理者は規約又は集会の決議を得て区分所有者のために訴訟上の原告又は被告となることができます(法264項)。
 管理組合法人もその事務に関して規約又は集会の決議を得て、上記の管理者と同様、区分所有者のために訴訟上の原告又は被告となることができます(法478項)。
 

 専有部分か共用部分かをめぐる紛争 
 

 管理人室、駐車場、倉庫、機械室などは本来共用部分のはずですが、マンション分譲の後も分譲者の名義のまま所有権保存登記が維持されていることがあります。この場合、区分所有者らは、登記名義人である分譲者に対して、管理人室等が共用部分であるとして、所有権保存登記等の抹消登記手続を請求し、あるいはこのような請求とともに管理人室等の明渡しを請求することがあります。
 区分所有者らは共用部分につき共有持分を有しており(法14条)、個々の区分所有者らは共有持分権に基づく保存行為として登記の抹消、明渡しを請求することができると解されます。個々の区分所有者はこのような訴訟の当事者適格を有します。
 

 管理規約をめぐる紛争 
 

 管理組合が個々の区分所有者から管理費や修繕積立金を徴収するという法律関係は、管理規約に定められています。多くのマンション管理組合ではマンション標準管理規約と同様の管理規約を持っていると考えられますので、同規約をみてみますと、第25条で「区分所有者は管理費、修繕積立金を管理組合に納入しなければならない。」としています。したがって管理組合は原告となって訴訟上の請求をすることができます。この場合、管理組合総会における事前の承認は必要ではまりません。また管理費の請求について管理者である理事長個人が原告となることも可能です(法264項)が、この場合は法律の規定どおり管理組合総会の承認が必要です。
 管理規約において建物、敷地、附属施設の使用方法に関する行為の制限ないし禁止が定められることがあります。各区分所有者(又は占有者)がこの規約によって負う義務は直接的には管理組合に対する義務ですから、これに対応する権利は管理組合が有すると解されます。管理組合は規約で定めるところにより、違反行為に対して違約金を課すること、その違反行為を停止しその行為の結果を除去し又はその行為を予防するため必要な措置をとることを、訴訟の原告となって請求することができます。
 

 専有部分の使用をめぐる紛争 
   専有部分の使用が共同の利益に反する場合に、区分所有者の全員または管理組合法人は、その行為の停止等を請求することができる(法57条)ほか、集会の決議に基づき訴えによって、専有部分の使用禁止(法58条)、区分所有権の競売(法59条)、占有者に対する引渡し(法60条)を請求することができます。集会の決議により、区分所有者全員のために、管理者または集会において指定された区分所有者も、訴訟を提起することができます。このうち、専有部分の使用禁止、競売、占有者に対する引渡しの請求については、区分所有権・共有持分権の内容を超えるものであり、区分所有法が特別に認めた権利であることから、上記の請求をすることのできる当事者適格は上記規定に定められた者に限られると解されます。ただし法人格のない管理組合が原告となって専用部分の使用禁止を請求した事案において、その原告適格を認めた裁判例(福岡地裁昭62519判タ651221頁)があります。           
           



       
     
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